【ブックレビュー】「囁く谺」を読んで

ミネット・ウォルターズ著/成川裕子訳 創元推理文庫
※ありんこ天国のブックレビューは基本、ネタバレです

 谷に牙と書いて、こだまと読むのですって。
 それはさておき。
 読み終わってまず思ったのは「わからん・・・」でした。ミステリーですが、解決したと言えるのかすら、わたくしにはよく分からなかったのです。
 「結局、どうなるんだアマンダは?」
 そのまま、訳者あとがきを読むと、
『アマゾンコムの読者書評欄に寄れられた感想にも、contorted’ convoluted’ confusing などの単語が数多く見られる(どれも、複雑な、入り組んだ、ややこしい、くらいの意味だと思ってください)。ー中略ー「頭が痛くなりたかったら、本書をお読みなさい」と薦める人もいるほどであるー後略ー』
とあり、「なんだー、特別わたくしの頭が悪いて訳ではないんだー」と、安心した次第です。しかし、分からなかった=つまらなかった、ではないのがこの小説の不思議なトコロ。分かりたい一心で、読み終えた直後に再び、読み直すコトにしました。数年経って読み返すコトはあっても直近で、読み返すのは初めてです。

 物語自体のややこしさはいいとして、わたくしにはカタカナの名前が覚えられない、というハンディがあります。いやあなた、日本人の名前も覚えられないではありませんか。と、突っ込まれたら確かにそうなのですが、カタカナの名前はより輪をかけて、覚えにくいのです。
 この物語には、要の失踪人/ジェームス・ストリータートとピーター・フェントンが出てきます。1読目は、
・どちらがアマンダの旦那だっけ?
・どちらが謎のホームレス/ビリー・ブレイクに似てるんだっけ?ん?どっちも??
・スパイの容疑がかけられているのはどっちで、浮気疑惑があるのはどっちだっけ?
と、とにかく2人の区別が付けられないまま、物語を読み進め、読み終えてしまったのでした。そんな中、スキンヘッド・ホームレスの少年テリーは魅力的と言ってもいいかな(かなり上から)、という存在で、謎を追う主人公ディーコンの、実力派ながらパッとしない外見といけてない性格がちょっとだけチャーミングな感じがしないでもない(かなり上から)中年記者っぷりが、わたくしを2読目に駆り立てたのだと思います。

 2読目で相関図も多分理解できたと思われます。意外なトコロ で人と人とが繋がっていたりもして、世間は狭いのです。そして多くの コトが、ただただ偶然のようにも思えます。偶然居合わせてしまった殺人現場と偶然拾った新聞記事。弁護士達は奇遇にも関係者がクライアントで。偶然の殺人と偶然に見せかけた殺人。わたくしが偶然だと思うコトをテリーは運命だと言います。偶然=運命。そして運命は2つの失踪事件をビリーを通して結び付けてしまうのです。
 最後まで正体を明かされないフェリシティ・メカトーフはジェームスの愛人なのだろう、と予測します。名前を変えた彼女はずっと、ジェームスを待っていました。そして、ジェームスを殺したアマンダは、無罪を勝ち取る予感がします。
 そう、アマンダ。
 わたくし、小説や映画では美人に肩入れしがちなのですが、このアマンダにはなぜか、のれませんでした。美人なだけでは心惹かれないモノなのですね。

 ちなみにこの著者は、ありんこ天国の本の服を選んでくださったお客さま推薦の作家です。「女流彫刻家」を筆頭に挙げられ、初期の作品を勧められました。そして初期作品であるこの本をチョイス。女流彫刻家も読んでみます。美術系の小説には、ワクワクしてしまいます。詳しくはないクセに。

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